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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(行ツ)82号 判決 1975年12月18日

上告人 大阪建物株式会社

右代表者代表取締役 工藤友恵

右訴訟代理人弁護士 中筋義一

中筋一朗

福田玄祥

益田哲生

被上告人 旧名東京都千代田税務事務所長 東京都千代田都税事務所長 大西利亀

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中筋義一、同中筋一朗、同福田玄祥、同益田哲生の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができ、その過程に所論の違法は認められず、また、右判断は、所論引用の各判例に違反するものでもない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを非難するにすぎないものであって、採用することができない。

同第二点について

地方税法(以下「法」という。)によれば、不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時における不動産の価格であり(七三条の一三第一項)、この価格とは、適正な時価をいうのであるが(七三条五号)、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされ(七三条の二一第一項本文)、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産又は特別の事情があって当該固定資産の価格により難い不動産については、道府県知事が自治大臣の定める固定資産評価基準によって、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされているのである(同条二項)。

ところで、固定資産課税台帳の固定資産の価格登録の制度は、元来、固定資産税の課税標準を定めるためのものであって、法の固定資産税に関する規定の定めるところである。すなわち、基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(以下「基準年度の土地又は家屋」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は、基準年度にあっては、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(以下「基準年度の価格」という。)で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳(以下「土地課税台帳等」という。)又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳(以下「家屋課税台帳等」という。)に登録されたもの(三四九条一項)、第二年度、第三年度にあっては、その賦課期日において、地目の変換、家屋の改築又は損かいその他これに類する特別の事情等があるため基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となった価格によることが不適当である等の場合を除いては、当該土地又は家屋の基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となった価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたもの(同条二項、三項)とされ(基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となった価格によることが不適当である等の場合は、当該土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとされている。同条二項、三項)、また、第二年度において新たに固定資産税を課することとなる土地又は家屋(以下「第二年度の土地又は家屋」という。)又は第三年度において新たに固定資産税を課することとなる土地又は家屋に対して課する第二年度又は第三年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋に類似する土地又は家屋の基準年度の価格に比準する価格で土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとするとされ(三四九条四項、六項)、さらに第二年度の土地又は家屋に対して課する第三年度の固定資産税の課税標準についても、基準年度の土地又は家屋に対して課する第二年度又は第三年度の固定資産税の課税標準と同様の取扱いがされ(三四九条五項)、いわゆる台帳課税主義及び価格の据置制度がとられているのである。そして、これに伴い、市町村は、固定資産の状況及び固定資産の課税標準である固定資産の価格を明らかにするため、固定資産課税台帳を備え(三八〇条)、市町村長は、固定資産評価員の作成した評価調書に基づき、自治大臣の定める固定資産評価基準によって、固定資産の価格等を毎年二月末日までに決定し(四〇九条、四〇三条一項、四一〇条)、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならないとされているのであるが(四一一条一項)、第二年度又は第三年度において基準年度の土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準について基準年度の価格による場合にあっては、あらためて価格の登録の手続をすることなく、土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されている基準年度の価格をもって第二年度又は第三年度において土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録された価格とみなしている(四一一条二項)のである(第三年度において基準年度の土地若しくは家屋又は第二年度の土地若しくは家屋に対して課する固定資産税の課税標準について比準価格による場合にあっても、右と同様に、登録された比準価格をもって第三年度において土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録された比準価格とみなしている。同条二項)。

思うに、前記のように、法が固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については原則として当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとしているのは、固定資産税の課税対象となる土地及び家屋の範囲は、発電所及び変電所が家屋に含まれることを除けば、不動産取得税の課税対象となる不動産と同一であり(三四一条二号、三号、七三条一号ないし三号)、固定資産税の課税標準となる価格も不動産取得税のそれと同じく適正な時価をいうとされ(三四一条五号)、両税に用いられる固定資産の評価基準もともに自治大臣の定める同一の固定資産評価基準であるところからみると、不動産の価格の評価の統一と徴税事務の簡素合理化をはかるためであると考えられるのであって、要するに、固定資産税の課税標準となるべき固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格が、原則として、不動産取得税の課税標準である当該不動産の適正な時価をあらわしていると認められるからにほかならない(七三条の二一第一項但書参照)。そして、各年度の固定資産の課税標準は、前述のように、各年度の登録価格又はみなされた登録価格によるものであって(課税標準の基礎となる価格については価格の据置制度がとられているのであるが、第二年度又は第三年度において基準年度の価格によるべき場合又は第三年度において比準価格によるべき場合には、登録された基準年度の価格又は比準価格が第二年度又は第三年度の登録価格とみなされ、そのみなされた各年度の登録価格により課税標準が定まる。)、登録価格(又はみなされた登録価格)自体は当該年度限りのものとされているのであり、また、基準年度においては、あらためて当該年度の固定資産税の賦課期日における土地又は家屋の価格が評価、決定され、それが固定資産課税台帳に登録され、基準年度の固定資産税の課税標準は、右登録価格によるのであって、前年度の価格によることはないのである。これらのことを考慮すると、法七三条の二一第一項にいう「固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産」とは、不動産を取得した時において、その取得の日の属する年の固定資産税の賦課期日における不動産の価格が固定資産課税台帳に登録されている不動産を指し、基準年度に不動産を取得した場合において、右取得時までに基準年度に係る当該不動産の価格の決定及び当該価格の固定資産課税台帳への登録が行われず、固定資産課税台帳に前年度の価格が記載されたままになっているにすぎないときは、法七三条の二一第二項にいう「固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産」として、道府県知事は、自治大臣の定める固定資産評価基準により、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定すべきものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、昭和三九年度は基準年度にあたり、しかも市町村長が固定資産の価格を決定すべき期間は三月三一日までとされていたのであるが(昭和三九年法律第二号参照)、上告人が本件第二土地を取得した昭和三九年三月二八日当時、固定資産課税台帳に昭和三九年度の右土地の価格が登録されていたかどうかは必ずしも明らかではない。しかしながら、仮に右価格が登録されていたとすれば、当然、右登録価格により本件第二土地に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格が決定されるべきものであるし、また、右価格が登録されていなかったとすれば、前記説示のとおり法七三条の二一第二項に基づき都知事が自治大臣の定める固定資産評価基準によって右土地に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定すべきものであるが、この価格は、前記のような不動産取得税及び固定資産税に関する不動産の価格の評価のしくみから考えれば、のちに昭和三九年度の固定資産税の課税標準となるべき価格として固定資産課税台帳に登録されるにいたった価格と同一になるべきものであるから、右登録価格を課税標準としてした本件賦課処分は違法とはいえない。原審の判断は、右と理由を異にするが、その結論において正当である。論旨は採用することができない。

同第三点について

所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するにすぎないものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)

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